Casablanca – Bertie Higgins

上京して2年目の夏、ぼくは同郷の親友と、R(仮名)という喫茶店でバイトを始める。この辺りの話は、もしかするとブログのどこかで書いたかもしれない。当時のRは、渋谷や原宿など都内に5店舗ぐらいの小さなチェーン店だった。ぼくは、渋谷のお店で面接を受けたが、原宿店の配属になった。(今は、なんと全国にお店がある。みなさんも行ったことがあるかも。原宿店はなくなったけど・・・)

原宿店は、竹下通りの明治通りに近い位置にあり、マリオンクレープなどを横目で見ながら通うバイトは、岩手から出てきたばかりのハタチそこそこの少年にとって、結構刺激的なのであった。

竹下通りは、多分、今もそうだと思うけど、土日は相当賑わう。
当時は竹の子族がいる頃で、相当盛り上がっていた。

朝の10時に入って確か8時ぐらいまで休みなしで働いた。
確か、1日でお客さんが500人ぐらい入ってて、名物のジャンボパフェをトレーに何個も載せてばきばきと運んでた記憶がある。

ただ、平日になると、ゆったりと仕事してた記憶もある。
今、覚えてるのは、忙しくても暇でも、とにかく楽しかった、ということである。

今まで、バイトも正社員も含めて、とてもいろんな仕事をしたけれど、Rの仕事が一番楽しかった。これはいつも内心、自慢してたことだけど(最近は自慢する相手がいないので過去形で書いている)日払いのヤバい仕事をしたり、株式会社の社長をやってみたり、世界的な商社や銀行の本社でプレゼンしたりで、ぼくの職務経験の多彩さは、ちょっと誇らしいと思っている。
(今、ほとんど収入がないのだから、結局、あれらの経験を活かせないでいる(笑))

そして、そんなぼくが選ぶ仕事「ベスト・ワン」は、あのRのバイトだ。

ホールの仕事も楽しかったし、たまに厨房に入って料理を作るのもスリリングでわくわくした。多分、岩手の田舎から出てきて少年が、都会の華やかな場所で、接客しちゃうという行為も手伝ったのだと思うけど、それ以上に何か惹きつけられるものがあった。いろんな仲間と出会い、恋愛もしちゃって、なかなかいい経験だった。

お店で流す曲は有線放送だったけれど、チャンネルは特に決まっておらず、バイトに任せられていた。大抵は、ディスコソングやポップス、R&Bを流していた。当時としては、なかなかいい雰囲気だと思う。高級感はないけれど、若者がくつろげるお店だった。

そんなお店で流れてた音楽には、いろんな曲の思い出があるけれど、特に焼き付いてるのがBertie Higginsの「カサブランカ」だ。郷ひろみさんがカバーした「哀愁のカサブランカ」の元曲である。当時のことを思い出すと、この曲が脳裏に流れる確率が高い。それは多分、当時、なんとか彼女にしようとしていたKさんが好きだった曲だったからだと思う。

彼女は何度かぼくのアパートに遊びに来てくれて、泊まって一緒に寝たりもしたのだけど、彼女にはならなかった。そして、この辺りの記憶は曖昧だけど、確か、彼女とうまくいかなくなったことで、バイトをやめてしまった気がする。そんな尻すぼみな感じは、まったくぼくらしいのだけど、追憶の中に、このメローな名曲がいつも流れているのである。