Eye in the Sky -The Alan Parsons Project

上京して2年めの秋、友人に誘われて車の免許を取ることになった。
そして、どうせならと芸能人も通っているという目黒の「日の丸自動車学校」というところに通うことにした。(今よりもずっとミーハーだったのである。)

教習所選びを考えたとき、路上教習があるので土地勘がないところだとキツいと思うけど、その頃は原宿や渋谷でバイトをしたり遊んだりしていたので、目黒という場所にも違和感がなかったのである。今なら、滅多に自分で運転して都内まで行かないので、そういう選択はしないと思うけど。

教習所通いは楽しかった。芸能人には会えなかったけれど、女の子も沢山いて友達も出来た。そうだ、その年の春に結構痛い失恋をして、やっと立ち直った頃だったから、何もかも新鮮でわくわくしていたというのもある。楽しさの勢いもあり一回も落とすことなくストレートで卒業した。(その割に今でも車の運転は下手なんだ。)

出来た友達の中に、アサミという2つ年上の女性がいた。ちょっと浅黒くてロングヘア。例えるなら浅野温子さんみたいな感じ。乃木坂のブティックで働いていた。お洒落な人だったけど気さくな人でもあった。ある日、学科を受けた後に、声をかけられたのである。とてもフレンドリーに、まるで同級生に話しかけるように、「ねえ、ここってどういう意味かわかる?」と教本片手に質問して来たのが始まりだった。

それから、すぐに仲良くなり、しばらくの間、付き合いが続いた。恋人同士のように2人で出かけたりケンカしたり、男女の関係になりそうでならない、微妙な距離感で進行するうちに、お互いに恋人が出来てしまい、そのうち、会わなくなってしまった。

彼女がぼくに口癖のように言っていたことがある。
「あなたはホントは大学をやめてふらふらしてるような人じゃないのよ。」

いつも中途半端で何者にもなれないまま終わってしまっていた、パッとしないぼくに対して、そんな風に言ってくれたのは、長い人生を振り返っても、彼女だけである。そういえば、彼女自身も向上心のある人で沢山本を読んでいた。そして、これいいよって言って「成功哲学」の本をくれたんだった。鉛筆でマーカーされたその本は、今でもぼくの部屋の棚にある。

「Eye in the Sky」は、彼女が好きだった曲である。ぼくの部屋でこたつに入って寝転がっておしゃべりしているとき、この曲、すごく好き、と言って教えてくれた。それ以来、この曲を聞くと彼女を思い出すし、ぼく自身もこの曲を好きになった。今でも特別に好きな曲である。

そういえば、彼女はこの曲のどこか好きだったのだろうか。

I am the eye in the sky
Looking at you
I can read your mind

ぼくは空から見つめる眼
いつもきみを見ているし
きみの心を読むことも出来る
すべてお見通しなんだよ

歌詞の内容を訳してみたり、ネット上で解説を探したりしたけれど、そこではないような気がする。多分、アレンジだ、と思う。アランパーソンという人は、ビートルズやウイングス、ピンクフロイドなどのエンジニアやアレンジをされた方だという。何度も繰り返して聴きたくような中毒性をもつ楽曲を提供してくれたアランパーソンさんとこの曲を教えてくれたアサミに感謝したい。