タイムスリップ

taka0023s
Photo by taka (X2)

風呂に浸かりながら、古い歌を聴いていたら、過去にタイムスリップした。「風」というバンドの曲を聴いていたのである。

「ほおづえをつく女」「夜の国道」「3号線を左に折れ」「通り雨」「海風」「冬京」「君と歩いた青春」・・・、曲名だけ並べても知らない人には何のことやら。と思うけれど、一応並べてみた。懐かしい人にはとても懐かしいはず。

あの頃のぼくは、上京したばかりで、山手線の駒込駅の近くの古いアパートに住んでいた。駅から2分のとても便利な物件だったけれど、線路沿いで、山手線が通ると揺れる、窓のない四畳半だった。外側の非常階段のような階段を上り、薄っぺらの玄関を開けると、すぐ右手にぼくの部屋の入り口があり、ドアを開けると小さな台所と、隠れ家のような部屋があった。

お湯にくるまれながら、ぼんやりとしていたら、そんな昔のぼくの部屋にタイムスリップしてしまったのである。

秋の夕暮れ時、穏やかな天気で暖かな日だったのだろう。部屋の中に柔らかい空気が流れている。台所の窓から差す夕焼けの光が部屋全体に斜めに差し込み、とても綺麗だ。バイトをして買った小さなステレオコンポからは「風」の「冬京」が流れており、若きぼくは音楽を聴きながら壁にもたれてだらんとしている。他には誰もいない。頻繁に通る電車の音も気にならない。とても幸せで自由な空間。

あの頃、未来に何の不安もなかった。ぼくは大学に行かなくなり、仕送りも止まり、バイトしながら、ぶらぶらとしていたけれど、何の問題も感じなかった。ほんとに貧乏で、食べられない日が続いて腹が空いて大変だったけれど、そのうち何とかなると思っていた。

同級生たちは、一流企業と言われるところに就職していくのだろう、と思いながら、ぼくにはぼくのやり方があるのだ、と思っていた。そして、確かに、ぼくはぼくのやり方でここまで来た。ここまで来れたのだ。

本来なら、今のぼくが、過去のぼくに助言すべきなんだろうけれど、逆になった気がする。若きぼくは、今のぼくに、なんとかなるんだよ、なるようになるさ、と教えてくれた。

そんな気持ちになる、一瞬のタイムスリップだった。


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